【マット・ベネットの音楽大好き】RC サクセション『スローバラード』

26.June.2016 | FEATURES / MUSIC

レコードを掘り返す歴史学者にとって、忘れられていた音楽の軌跡を発見する感動に勝るものはない。考古学者が化石を掘るように、そこには無数の価値ある宝石たちが眠っている。
だけど僕は考古学者ではなくて、カッコいいバンドを求めて目を光らせているただの若者だ。
レコードを買うことは時折、砂浜に焚き火の跡を見つけて、火の消えた石炭の中に残るかすかな熱を感じることに似ていると思う。
RCサクセションの『スローバラード』からは間違いなく今もその熱が溢れて出ている。


日本の音楽のファンと話す時は、日本のバンドを分かりやすく西洋の有名なバンドに言い換えることがよくある。
例えば、「コーネリアスは日本のベックだ」とか、ブルーハーツは日本のクラッシュだ」とか、はっぴいえんどは日本のビートルズだ」
といった具合にね。J-ROCKのことを知っていく中で、誤解を恐れず思い切って言うと、僕はRCサクセションは日本のローリングストーンズだと思う。


僕が初めてRCサクセションの名前を知ったのは、日本版ローリングストーン誌に掲載されていた「邦楽歴代アルバムランキングTOP100」の中でだった。(J-ROCKをもっと知りたいと思っている人は、ここから聞き始めるのがオススメ。)1980年に発売された彼らの2枚組ライブアルバム「Rhapsody」は日本のビートルズことはっぴいえんどに次いで2位にランクインしていたのだ。ハハハ!往年のビートルズVSローリングストーンズのバトルは国境を越えるんだね!
そして園子温監督のクリスマスシーズンの名作「ラブ&ピース」のエンディングにスローバラードが流れてきた時、僕はすごく心を惹かれた。
映画「ラブ&ピース」は、オタクでさえない会社員に飼われているミドリガメがある事からトイレに流されてしまい、流れついた先でホームレスのサンタや捨てられたオモチャたちと出会うところから話が展開する。悲しみに打ちひしがれたその飼い主は必死に大事なミドリガメを探す中、日本一のロックスターになっていき、その一方でミドリガメは巨大な怪獣に変わっていくというストーリー。園監督の他作品と同様、斬新で独特な映画だ。
もし彼の作品を観たことがあるなら、こんなカオスな展開も理解できると思う。彼の映画は火星から来たのか?ってくらいに風変わりで急に話の流れが変わるのだ。
園監督は音楽を聴く耳も肥えていて、彼の代表作「愛のむきだし」では専ら日本のインディロックバンド、ゆらゆら帝国の曲が使われている。
僕は周りからのオススメに耳を傾けるタイプの人間だから、園監督お墨付きの曲は調べざるを得なかった。
映画の締めくくりで、スローバラードの柔らかいピアノとギターのアルペジオがゆっくりと流れてきた時、園監督はまたやってくれた!と僕は感じた。この曲はキャッチーなだけじゃない!僕はエンドロールの最後まで観て、その曲がRCサクセションの「スローバラード」だということを知ったんだ。
「あ!」と僕は気づいた。「RCサクセションって日本版ローリングストーン誌のランキングで2位だったバンドだよね?」って。
ここでぼくは「RCサクセション – スローバラード」とメモをとった。
「スローバラード」は車の後部座席で恋人たちが寄り添って眠る中、車のラジオからスローナンバーが流れてくる様子をうたっている。付き合い始めのカップルの初々しい気持ちや甘酸っぱさがよく捉えられている。忌野清志郎(日本のロックの王様)が張り上げる熱のこもった声が、管楽器のうねりと重なり切なく響いて、歌中の恋人たちと一緒にロマンスに夢中になるような気持ちがストリングスの音と共に押し寄せてくる。


「Rhapsody」コンサートの映像を観ると、とても1980年らしい光景を目にすることができる。ジャーン!ビデオはこちら。



ポップミュージックはまだロックやファンクからそこまで進化していなくて、かと言って完全にディスコサウンドやニューウェーブに移行しているわけでもない。当時は星型のワイプ(下記動画参照)やピクチャインピクチャ(PCやTV画面の一部に小さな画面を表示すること)がまだ最先端とされる時代だったのだ。



そしてRCサクセションのライブ演出は、“Start Me Up” 時代のストーンズそっくりだ。パンクのフリをした奴らにインスパイアされながら、彼らの音楽はちょうどいい具合に蛍光塗料を染み通らせている。
忌野氏はおそらくデヴィッド・ヨハンセンの女性らしさを取り入れながら、ミックジャガーの動きを誇張している。ギタリストの仲井戸チャボ麗市はもちろん日本のキース・リチャーズだと言えるだろう。
スローバラードは西側の世界には届かなかったのかもしれない。けれど「君」の世界を変えることはできるかも。そしてそれがマット・ベネットの目指すところ。僕はロックが大好きだ。だから君も一緒にロックしない?


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