ザ・ホワイト・ストライプス、アークティック・モンキーズ、アラバマ・シェイクスら世界の音楽を意識し、“日本ロックの旗手”として、日本語でのロックにこだわってきたGLIM SPANKY。
また、ザ・ビートルズ来日50周年記念のカヴァーアルバム『ハロー・グッドバイ』で、”サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド”と後期の曲のカヴァーを行うなど音楽通としても知られる彼女達。
そんな彼女達の新作アルバム『Next One』収録の”怒りをくれよ”が世界的人気アニメ、ワンピースの映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌に決定。これを機にさらに海外での認知度が高まる事が予想される。本インタビューは、『Next One』発売直前の6月下旬に取材したもの。彼女達の音楽にかける想いを語ってもらった。そして7月9日に行われた東京キネマ倶楽部でのライブ模様もお届けする。
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interview:GLIM SPANKY
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――1stフルアルバム『SUNRISE JOURNEY』発売から1年経ちましたね。この1年間(取材は6月下旬)でミニアルバム『ワイルド・サイドを行け』、EP『話をしよう/時代のヒーロー』を発表して、今回ついに2ndフルアルバム『Next One』の発売です。この1年で発表した作品には繋がりはありますか?
松尾レミ(以下、松尾) 『Next One』は、ミニアルバム『ワイルド・サイドへ行け』を意識していますね。デザインも丸のアートワークを基調にしていて、それらを繋げているという歴史もあるので、それをしっかりと伝えられる盤にしたいなという意識もありました。
亀本寛貴(以下、亀本) それでも各楽曲たちは、その時々で考えて作りだしてきたので、
「1年間にこういう作品を作って、こういう順番で出しますよ。」という順序があったわけではないですけどね。
――1年前のインタビューで、「GLIM SPANKYは、周りの人たち、お客さんや関わった人たちと同じバスに乗り込んで同じ夢をみたい。」と話していましたが、このバスは今どのような状況に変化したでしょうか。
松尾 リスナーも増えて、私たちの周りにいるすべての人たちや、バンドとしても大きくなっているという実感があります。それでも、意味のない繋がりでバンドが大きくなっているのではなくて、しっかりと進むべき人たちと共に、「この時代に何を発信するのか?」。このことへと意味を見出して、進むべき仲間たちが増えて、一緒にいい感じで進んでいると思います。
――たった1年の間で数々のフェスへ出演して、タイアップにメディアへの露出……さらに一般世間へと認知度は上がっていき、活動の幅は増えていますよね。
松尾 とても嬉しいことですよね。元々持っていたハングリー精神がさらに出てきていますよ。
元から持っている意識の変化はないので、どんなイベントに出演しても、メディアへの露出が増えても、私たちが目指している場所はさらに大きな場所なので、どんどんその先に向かっていきたいですね。
――1年前は<フジロック・フェスティバル>など、ビッグフェスへの出演前のインタビューでしたが、周りの音楽は周りの音楽で、自分たちの音楽は自分たちの音楽。そう捉えられるニュアンスのお話もありましたが、この部分に変化はありましたか?
亀本 他のバンドは他のバンドとして素敵ですけど、僕らの音楽の土台や考え方など、根本的にバンドのスタイルが違うので、他バンドとの共演やイベント出演を重ねても変化はないですね。
松尾 もし、自分たちと同じスタイルのバンドが出てきたとして、そのバンドがすごく盛り上がっていたら、気になるかもしれないですけどね。
亀本 そういうバンドが出てきて「やばい! あいつらめちゃくちゃ格好いいリフ弾いているぞ!」とかあれば、気になるかもしれないです(笑)。
松尾 でも、ベクトルが違うからね。ふたりとも他のバンドが何か新しいことをしていても、気になったり、焦ったりしないですからね。自分たちはスタイルを曲げずに、「GLIM SPANKYヤバい!」、そんな風にファンやリスナーに思わせて、どうやってシーンを確立していくのか。最近はそのことを考えるべきだということがわかってきました。
――そして、リリースと共にビッグニュースですね。オフィシャルから発表があった時はビックリしました。『ONE PIECE FILM GOLD』主題歌、”怒りをくれよ”決定おめでとうございます! どのような経緯で主題歌を担当することが決まったんですか?
松尾 尾田栄一郎(ワンピース原作者)さんが、ラジオでGLIM SPANKYの曲が流れているのを聴いて知ってくださっていたんです。それで、映画の会議中に尾田先生がGLIM SPANKYの曲を流し始めたらしく、みんなざわざわし始めて、「誰だ!?」という話から、尾田先生が「GLIM SPANKYが良い!」と言ってくれたらしいんですよね。それからレコード会社にコンタクトがあったんですけど、大きなプロジェクトなので、いくら尾田先生がGLIM SPANKYを推していると言っていても、「どうなるかわからないから話半分で聞いてください。」という所から始まりました。自分たちも「なくなるかもしれない話だな」と覚悟をして結果を待っていましたが、尾田先生の熱い意気込みと、スタッフさんたちがそれを信じるということでGLIM SPANKYに決めてくれました。
――最初に話が来た時は、ふたりでどんな話をしましたか?
亀本 「ワンピース人気だし、すごいじゃん!」という感覚はありましたけど、「うおー! やったぜー!」というような感じではく、普段通りでしたよ。
松尾 そこまで実感できてなかったですよね。ここからだなって。映画館で流れた時にどうなるのかなということは考えましたね。
亀本 曲を作ること、聴いてもらう喜びの方が強くて、決まった時点では達成感は感じないですよね。なので、「いい曲を作るぞ!」っていう感覚の方が大きかったです。
――アルバムタイトルを『Next One』に決めた理由が気になりますね。”Next One”はブラインドサッカー日本代表公式ソングとして書き下ろされた曲じゃないですか? それからミニアルバムへの収録もされていますし。
松尾 Next Oneという言葉は中学時代から私の座右の銘で、ずっと自分の中で大切にしてきました。勝ちでも負けでもNext One。いつでも最高傑作は次の一手なんです。書き下ろした曲ですが、ブラインドサッカーだからこそ書かなくてはいけないというものではなくて、内容は自分のことを書いた曲でもあります。他のタイトルも考えましたが、「自分は何を伝えたいのか?」と考えた時に、どうしてもNext Oneという言葉への精神に繋がって、浮かんでくるということは、この言葉が今、自分の中で一番伝えたいメッセージだと確信したので、自分の言葉として『Next One』をタイトルにしました。
――松尾さんは、このアルバムで「ロックが本当に大好きだということを音から感じてもらえたら最高」という話をされていましたが、自身が『Next One』の中で、特に“ロック”だと感じる楽曲があったら教えて欲しいです。
松尾 どれもロックを大前提として作っているので、特にというのはないですけど……。ザ・ブラック・キーズとかもしていますが、“grand port”ではEDMでよく使われる、リズムが盛り上がるごとに倍になっていくような感覚を、自分たちはあえて電子的なものじゃなくて生の音でやりました。捉え方によってはアンチテーゼと感じるかもしれませんし、リスペクトとされる場合もあるかもしれません。でも、音楽は繋がっているんだと思う人もいるかもしれないです。色々な捉え方ができるのは面白いかなと思います。後は“grand port”と”いざメキシコへ”は、「GLIM SPANKYが4つ打ちをやるとこうなるんだぜ!」という、GLIM SPANKY的な4つ打ちソングというものを提示した楽曲なので、そういう部分もアルバムの面白いポイントかもしれないですね。
――スタンダードになりつつある4つ打ちのロック。それでもサウンドはGLIM SPANKY的ですよね。
松尾 そうですね。自分たちのサウンドは全く曲げていないです。例えば、日本の今時の4つ打ちバンドについては色々と言われていますけど、正直、海外では当たり前なのに、「なんで今、国内ロックバンドの4つ打ちが話題になっているのか」。このことを亀とふたりで話してみたんですけど、「早いことに日本らしさがある」という結論にたどり着いたんですよね。かなりBPMを落としたミドルテンポンの4つ打ちにしたら洋楽的になるんですけど、テンポを上げて小刻みにすると日本的になるんです。今時の日本のロックバンドは4つ打ちじゃなくて、速さに特徴あるのかなと思って、あえてミドルテンポでやってGLIM SPANKY的な4つ打ちロックを提示しました。“いざメキシコへ”とかは、今時の4つ打ちと同じようには捉えられないと思いますね。
――“grand port”は詩も聴き込んでしまいましたね。さらに高みを目指そうよ! という感覚。
松尾 歌詞はツアーの最中に、初めてフェリーで10時間以上かけて北海道に行ったんですけど、船で違う大陸に行くわけですよ。その経験が自分の中で大きなものに感じられて、北海道のホテルで部屋に着いてすぐに、「船に乗って未開の地へと行く」という自分の気持ちを絵描きに例えて、そのまま素直な気持ちで書いて、歌っています。言葉を発するように、するすると書きましたね。
――亀本さんは『Next One』について、「昔からある曲など色々な形で生まれた曲が入っている」と語っていますが、その中でも特に思い出深い曲はありますか?
亀本 全部です(笑)! 昨日たまたまアルバムを聴いていたんですけど、”いざメキシコへ”と”怒りをくれよ”が、個人的には好きだなと感じましたね。メロディと曲調が「日本語の歌詞を乗せるのは難しいかな」って思っていたんですけど、いい感じに詩がメロディに乗ったんですよ。
例えば、日本語のバラードにロック、特にポップスとかはいい曲を書く方は沢山いますよね。それでも、ロックでリフものの音に、日本語の歌詞をいい感じに乗せるのは、常々難しいなと思っていたんですけど、それを達成できた気がします。
松尾 例えばザ・ブラック・キーズ、ザ・ホワイト・ストライプスのギターリフの上に、言葉遊びじゃなくて、しっかりと文になっている日本語の歌詞を乗せるのは、かなり難しいと思います。それをやっている日本人をあまり知らないので、自分はそこに挑戦していますね。
亀本 “ “怒りをくれよ”なんて、イントロから、Aメロから、サビまでずっと、すべて同じコード進行。それでもしっかりと日本語の曲のサビになっているんです。「これはGLIM SPANKYじゃないと出来ない!」と感じているので、大満足ですね。
松尾 “怒りをくれよ”のサビには少し迷いもあったんですよね。ワンピースサイドからは、「GLIM SPANKYが思う格好いい感じにしてください」ということで、歌詞など楽曲製作についてはまったく要望がなかったんです。ひとつだけ、言いたいこととして、「僕たちはワンピースを変えたいので、今までのワンピースにないサウンド。GLIM SPANKYが格好いいと思ったものが良いんです。TVで流れた時に、こんなロックがお茶の間で流れて大丈夫なの? というサウンドでお願いします」、ということはありました。そもそも、GLIM SPANKYを選んだ理由は60’s~80’sのロックを解釈しているという部分と、尾田先生がロック好きで反応していただいているということなので、60’s~80’sの部分を薄めないで、かつしっかりと、日本のお茶の間に届く、日本の早いロックを作ってほしい。というくらいで、本当に楽曲制作への要望はなかったんですよね。
亀田 何も要望が無いって……無茶というか逆に難しいなと思いましたよ(笑)。
松尾 洋楽的ロックで、日本語歌詞で早いというのは無茶に等しいなと。それでもそれをやらないといけないので、メロディには日本語の歌詞が乗っているけど、歌詞を取っ払ったら完全に洋楽ロックのメロディであるということを意識して作りました。それと、ワンピースの主題歌ですけど、「絶対にタイアップという見せ方にはしたくないです。ワンピース対GLIM SPANKYの2大巨塔のぶつかり合いです。強気のロックでお願いします!」と言われて、とても気持ち良く出来ましたね。
――”怒りをくれよ”は、これまでにも共に作業をしてきた、いしわたり(淳治)さんと亀田(誠治)さんをプロデューサーとして迎えていますが、どのようなやり取りがありましたか?
松尾 淳治さんとも、もう何曲目かな? というほどやっているので、私が「こう考えていて、こういう歌詞を唄いたい。」というのを伝えたら、「じゃあこういう言い回しはどうかな?」って。
――提案というヒントですね。
松尾 そうですね。もう淳治さんはわかっていただいているなと(笑)。尾田先生は映画に関して、全てのプロジェクトに関わっているので、やり取りにラグがあったりすることは仕方がないと思って覚悟をしていました。結果、歌入れ直前までがあり、ひとりでやるのには難しい部分もあったので歌詞の部分では淳治さんに、サウンドでは亀田さんに声をかけさせていただきました。ふたりはスピード感に慣れている、プロフェッショナルですね。
――ふたりのことをよく理解をしているということも強みですよね。
亀本 今はリード曲にいしわたりさんと亀田さんに関わっていただいていますけど、例えばいきなり『ワンピース』の主題歌を違う方にプロデュースしていただいたくのは、どう考えても怖いですよね。それでも、これからこういうことがあった時に、違う人でプロデュースしてもらう人がいるのか……最近ふと、そう考える時はありますね。
松尾 運命の出会いがこれからあるかもしれないですけどね。 『Next One』の収録曲はほとんどセルフプロデュースなので、それがとても楽しかったですね。
――”grand port”の違う大陸や未開の地へというような感覚でしょうか。
松尾 自分たちがやりたいことをする。「プロデューサーをどうしても入れなくてはいけない。」そういうことを今は思わないですし、必要な時に必要な人をしっかりと仲間として一緒に出来たらいいと思ってやっていますね。前回もそうでしたけど、『Next One』も色々な方法を、色々な人たちから得てきたので、それらを自分たちでどう消化していくのかという勝負だったので、それが本当に楽しかったです。
――”闇に目を凝らせば”は、これまでのGLIM SPANKYにあったサウンドの系譜でもあり、特にブルース的な要素も含まれつつ、明らかに進化したGLIM SPANKYの音だと感じました。制作秘話などありましたらお伺いしたいです。
松尾 ”闇に目を凝らせば”も、湊かなえさんの原作の映画、『少女』に書き下ろした楽曲なんですよ。暗い作品ですけど、三島(有紀子)監督がGLIM SPANKYを気に入ってくださって、『Next One』にも収録されている”NIGHT LAN DOT”がイメージ通りだったということで、「このような世界観を私の映画に書いてください!」というオファーを受けて、一緒にやることになりました。”NIGHT LAN DOT”は私の中で幻想文学の世界。その世界にどっぷりと浸かって、歌詞ではなくて、詩を唄っていくイメージ。私の中で一番得意な分野です。”闇に目を凝らせば”は、マックス・エルンストのエッチングという技法を使った絵画のイメージと合致して、その絵を描くように想い浮かべながら、いつも作る曲よりは、もっと絵画的に作った感覚でした。サウンドも「真夜中の抜け出せない世界」という幻想的なものを唄いたかったので、よりダーティーでサイケデリックなリズムを意識しています。ドラムの音色は、ひとつのドラムの音を重ねてダブルで叩いて不思議でサイケデリックなサウンド、歌詞で「星が落ちる」という表現をしている部分では、弦に絵の具をつけるような感覚で、アヴァンギャルドな弦を弾いて貰うなどと、かなりこだわりましたね。
――6月末には、ザ・ビートルズ来日50周年記念のカヴァーアルバム『ハロー・グッドバイ』で、”サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド”とかなり後期の曲のカヴァーで参加していますね。
亀田 自分たちで好きな曲を選べたんですけど、まわりからは“レット・イット・ビー”とか、有名な曲を提案されました。それでも僕は“ディア・プルーデンス”がやりたかったんですけど、「マイナーすぎる」と周りから言われて、流れてしまいました(笑)。色々な人から沢山の意見を貰ったよね。
松尾 色々と提案をしてもらったんですけど、私たちは心の底からビートルズが好きで、どの曲も好きで答えが出なくて……見かねたスタッフが「もう好きな曲でいいよ!」って(笑)。じゃあ”サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド”やります! という流れで決まりました。私はビートルズだと、この盤を1番聴いてきましたね。
亀田 僕は『ホワイト』(『ザ・ビートルズ』の俗称)なんだけどね(笑)!
――7月9日に東京キネマ倶楽部(以下、キネマ)開催される、ワンマンライブ<Velvet Theater 2016>についてお伺いさせてください。
亀田 キネマは、会場の雰囲気が聴いてもらえる感じで、演者自身も「1音1音聴いて欲しい」そう思わせられる空間。瞬発力ではない、他のイベントとは違う面をしっかりと出せて、そこをじっくりと聴いてもらえる。
松尾 GLIM SPANKYの「GLIM」の部分。幻想的要素がメインのライブなので、盛り上がるライブではないかもしれないですが、絵のような想像世界を魅せるライブになると思います。その空気の中で、音を鳴らした瞬間にキネマが幻想の夜の世界に包み込まれるようなショーを作りたいですね。
――最後に、ぐんぐん突き進んでいくふたりですが、今後の展望を教えてください!
松尾 身近なところだと、<Next One TOUR 2016>ファイナルの新木場スタジオコーストでワンマンをこなして、そこでさらに上の景色を見せられるようなショーをしたいですね。そして、ワンピースは世界的に人気のあるアニメなので、今後世界で私たちの曲が流れ始めます。新たな第一歩として、やっと少し動きがあるので、日本人が世界に向けてロックをする意味をしっかりと世間に提示します。後、ふたりで話をしていたんですけど、アジア人がロックをやる強みに対して自分たちの中で答えが出たんですよ。
――最後としましたが、その話かなり気になります!
松尾 ロックは欧米の音楽で輸入文化なので、マネをしても良くも悪くもアジア人らしさが出ますよね。それでも「欧米に出来ないロックって何だろう?」そう考えた時に、オリエンタルさだと思ったんです。オリエンタルさはアジア人にしかないじゃないですか? 例えば、欧米人がオリエンタルさをマネして、インドに行って格好良いと感じて、サイケデリックロックを取り入れて、自分たちの音楽に融合させて格好良くしてきたと思うんです。私たちにはとても幸運なことに、生まれながらにして本物のオリエンタルさを持っています。欧米人が出せない面を打ち出して、日本人のロックというものが世界で鳴り響くという想像が自分の中で確立され始めているんです。
亀田 欧米の人はアジアの言語では出来ないですからね。大きく見れば僕らは地球人。ブルースもロックも、カントリーもみんなの財産であると認識できます。それでも、例えば欧米の人たちが作る中国的な表現を作る時って、韓国も日本も混ざっていることが多いじゃないですか? 向こうの人たちから見たらあまり差が無いんですよね。そういうことも含めてアジア、東洋人がやっているロックのアイデンティティがあってもいいと思いますし、欧米人さながらというものでもなくていいと思ったんですよね。ビョークのアートワークにはオリエンタルさを感じさせるものもあります。親しみもあると思いますし、それを素敵だと思う感性が欧米人にもあると思うんです。そして、僕らは本物のアジア人。これは今後、海を越えても良い効果へと作用すると思うんですよね。
松尾 本物のオリエンタル・サイケデリックロックバンド。もしかしたらそう言われるかもしれない。アジア人であることを強みに出来るし、ヨーロッパだったらアークティック・モンキーズでもテンプルズでもいいんですけど、サイケデリックな部分を憧れてやっていますが、オリエンタルというものは私たちが元から持っている物なので、そういう部分をしっかりと示していけたら世界でもやっていける。
亀本 特別な存在になれるかもしれない。
松尾 さらにロック。そういう要素をしっかりと出していけたら、面白くやっていけるんじゃないのかなと。そして私たちは幸運なことに、そういう音楽が
亀本・松尾 好きだから(偶然重なる)。
松尾 世界に打って出る明確なビジョンになってきています。これから、さらにそれを実戦していくのみです!
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live:GLIM SPANKY <Velvet Theater 2016>
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東京キネマ倶楽部が”GLIM”の幻想な夜の世界へと包み込まれた。
7月9日、東京キネマ倶楽部にて開催された、GLIM SPANKYのワンマンライブ<Velvet Theater 2016(以下、ベルベット・シアター)>へと足を運んだ。<ベルベット・シアター>はGLIM SPANKYの、”GLIM”の幻想的な部分の要素を打ち出した、ライブというよりショー的な構成らしい。昨春に開催され好評を博し、今回が2回目の開催。チケットは早々にソールドアウトしているとは聞いていたが、会場の前は沢山の人で溢れていた。
これまでの私はGLIM SPANKYの、”SPANKY”の要素が強いものに参加してきたので、”GLIM”の部分では、どんな世界観を魅せてくれるのかと胸が高鳴る。少し早めに会場に入ったが、日頃から独特な世界観のキネマ倶楽部が、さらに妖しく幻想的で、真夜中にしか味わえないであろう特有の空気に覆われている。
この幻想的な世界へ浸り始めた頃に、ライブのタイトルでもある”ベルベット・シアター”で、幻想的な夜へのショーが開幕した。
“焦燥”では「SPANKY」な部分では見られない、暗めのアレンジが施されており、亀本のギターの音色が奥深く響き渡る。7曲目の”NIGHT LAN DOT”までMCもなく、会場は「GLIM」の世界に引き込まれている。続く”夜明けのフォーク”から、少しずつ真夜中から明けるような感覚へ。
“いざメキシコへ”の後には『Next One』に収録の、”闇に目を凝らせば”へと参加している四家氏が登場し、チェロの音色で、この世界をさらにディープに惹き込む。終盤の”リアル鬼ごっこ”では、意外な選曲だと感じ朝を迎えるような感覚でハッとなったのだが、その反動だろうか、ラストの”大人になったら”の詩と音がいつもより深く入ってきた。
そしてアンコールが始まると、演奏前に亀本が「未発表の曲もかなり多く含まれているので、付いてきてくれるか不安もあった。」とこぼした。そして、松尾は「自分が楽しくなかったら楽しくない」と言い放ったが、当たり前のように、ここに集ったお客はそれを求めている。
アンコールでは”GLIM”の部分を求めていた人たちも、新曲”怒りをくれよ”で”SPANKY”な部分をひと時味わった。しかしこれは<ベルベット・シアター>だ。そう思っていたら、アンコールのラストは、”ロルカ”である。終わりだとわかっているが、名残惜しくなる選曲である。
幻想的な夜から、真夜中へ。そして朝に向かう”GLIM”が表現する世界観。彼らは音楽で物語を作り、観客を惹き込む力までも備えている。満足な顔で会場から出て行くお客さんも同じことを感じたのだと思う。次のワンマンライブが待ち遠しい。<ベルベット・シアター>はそう思わせられる、魅せられたショーになった。